Vol.10

有人監視で健全なネット社会づくりに貢献

ピットクルー株式会社 代表取締役

 「Eビジネスマイスターに聞く!」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」と称し、Eビジネス研究所 代表理事の木村誠氏がさまざまな話を伺います。今回は、ピットクルー株式会社 代表取締役の松本公三氏に話を伺いました。

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Eビジネスマイスター:松本 公三

ピットクルー株式会社 代表取締役

1965年生まれ。岡山県出身。システム化が進む世の中で、システムのすき間を埋める「人」によるビジネスにこだわる。 1994年、デバッグ会社ポールトゥウィン設立。常にクライアントの要望に耳を傾け、デバッグのアウトソーシング市場において業界最大手となる。クライアントからの何気ない要望をヒントに、2000年インターネット監視会社ピットクルー設立。監視業務は一度受注すると継続性があり、また規模拡大していくケースが多い。先行者メリットを活かし、インターネット監視のアウトソーシング市場においても業界最大手となる。現在、日々変化するインターネット世界において、さまざまな健全安定化サービスの開発、提供に取り組む。

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matsumoto1.jpg―まず、松本社長の学生時代のビジネス経歴なんかをお聞きしたいんですけど。

松本氏
 僕の大学時代なんて、ホントに何もたいしたことはやってないですよ。だって、大学中退なんですから。


―そうなんですか。中退のことは普段公表しているんですか?

松本氏
 してますよ。今、勝ち組負け組みなんて言われますけど、学歴がどうだって成功できるってことを、後輩たちに示そうと思ってね。


―辞めたのは何年生のとき?

松本氏
 中退したのは4年生の5月ですけど、まともに行ったのは1年間くらいかな(笑)。学校にはほとんど行かなかった。アルバイトばっかりでね。ローン組んで車買って、ローンを払うために一生懸命バイトした。当時乗っていた車はフェアレディZですね。古いタイプの。フロントが長いのがよかった。


―そういえば、ピットクルーっていう会社名も、レースに関連した名前ですよね。

松本氏
 そう、昔っから今まで大の車好き(笑)。

 僕は1965年生まれなんですけど、学生時代の時給はまだまだ安かった。昼間のスーパーの時給は500円、コンビニで深夜働いて550円。一日中働いても手取り13万ほどなのに、その中から車のローンを月5万円払わなきゃいけなくて。バイトばかりでほとんど学校行かなくなって、大学を辞めちゃった。


―大学を辞めてからは、どんな生活を?

松本氏
 僕ね、結婚が早くて、23歳で結婚したんです。22歳の春に大学をやめて、1年働いて結婚。大学も彼女の実家も名古屋だったんで、最初は名古屋で磁気テープの営業を5年半ほどやりました。その後、個人事業を始めることにしたんですけど。

―事業を始めようと思ったきっかけを教えてください。

松本氏
 僕、生まれが岡山なんですよ。それで、岡山に帰ろうと思って地元の仕事を探しました。そしたら紹介してもらった仕事が、「いいのがあるよ、ファミコンショップ!」ってね。


―ほんとに、ファミコンショップ、始めちゃったんですか?

松本氏
 ええ。実はこのファミコンショップを始めるときに、運命の出会いがありました。1人は、岡山の実家のすぐそばに住んでらした、その当時、県議だった橘さん。フランチャイズは儲かるからいいぞ、と言って援助してくださった。


―儲かったんですか?

松本氏
 いやいや、儲からなかったんですけど(笑)。

 それからもう1人、今の会長で、ハドソン出身の本重です。「お前にだまされたら、あきらめる」と言って全面的に信頼してくれました。事業を任せてもらったけど、責任も取らされた。業績が低迷したときは、僕自身、自己破産寸前までいきましたよ。


―このお2人とは、仲がよかったんですか?

松本氏
 ええ。私は役割タイプとしては営業で、後ろで支援してくれた2人とはいい組み合わせでした。結局、ファミコンショップを4店舗立ち上げて撤退したあと、デバッグの会社を名古屋で立ち上げました。ポールトゥウィンという会社です。


―この社名も車関係(笑)。

松本氏
 そう! しかも偉そうでしょ(笑)。

 ポールトゥウィンは名古屋で大きくなって、今も順調に運営していますよ。そこに、インターネットの監視業務ができないかと言われまして、子会社として作ったのがピットクルーです。あるお客さまから目視の監視のお仕事をいただいたのが1998年のことでして。ピットクルーを立ち上げたのは2000 年の1月でした。

 僕はしばらく、ポールトゥウィンとピットクルーの経営を兼務していたんですが、今はピットクルーに専念しています。


―監視ビジネスのほうが将来性があると?

松本氏
 それはそうですが、ゲームデバッグの仕事って仕事量の山谷が激しいでしょ。ピットクルーを安定した事業に育てることが必要だったんです。

―なるほど。ここで松本社長に、監視ビジネスが生まれた経緯について、世の中の動きも交えてお聞きしたいんですが。

matsumoto5.jpg松本氏
 そうですね。まず、2ちゃんねるの書き込みが最初に社会問題になったのが2001年ごろのことなんですよね。その当時、企業の誹謗(ひぼう)中傷を書き込まれると困るというので、監視と削除をビジネスとする第一次ブームが起こったんです。多くは個人事業的で、マンションの1室で2人くらいのスタッフが24時間監視するというものだったようです。


―でも、2ちゃんねるが書き込みの監視や削除なんか、してなかったでしょ?

松本氏
 ええ。2ちゃんねるさんとの取引じゃないんです。「書き込みをされると困る」という会社への営業展開です。うちは結局、1件も仕事取れなかったですね。当時は、インターネットの監視にお金を払うという感覚が、まだなかったんですよ。


―そうでしたか。ビジネスが成り立つようになったのはいつごろ?

松本氏
 次に第二次ブームが来たんですけどね。パケット定額制ができて、ケータイコンテンツが増え始めた2003年ごろです。当初、ケータイの公式サイトにも、コミュニティサイトがあって、そこで「出会い行為」が発生することが多くなり、監視のニーズが一気に高まったんです。

kansi.jpgデスクに並ぶ、さまざまな機種の端末。画像表示のエラーを検出する業務は、デバッグの工程と切り離せない関係にある
―ええ!? 公式サイトに出会い系?

松本氏
 コミュニティサイトを使う人の中で、「出会い」を目的にしている悪質ユーザーも多かったのは事実ですね。当時公式コンテンツで、常に人気上位にあったのがコミュニティサイトだったので、多くのコンテンツメーカーが参入されて、その会社さんから仕事をもらえたので、ビジネスとして成功しました。それに、コンテンツが複雑化することによって、実機を使って検証しなければならない必要性も高まります。そこで、デバッグ会社で培ったノウハウが生きました。


―最近の動向に、何か特徴は?

松本氏
 最近は、掲示板だけでなくて、ショッピングサイトも主要な監視対象になっていますよ。出品物の画像表示の間違いなど、ミスもあるのでチェックをお手伝いするという観点が1つ。それと、ショップさんが本来売っちゃいけないものを出品してしまうことがあるんですよ。日本での販売が禁止されている薬物とか、化粧品。意図的に違法なものを売り出しているケースもあります。そのような出品状況を事前審査したり、削除したりしています。


―動画投稿サイトはどうですか?

松本氏
 動画投稿サイトでは、運営会社、コンテンツを持っている会社のどちらからも監視依頼がありますね。権利を守るという姿勢を社会に示すために、コンテンツホルダーが削除要請を行うんです。あるいはキャラクターを持っている会社が、キャラクターの世界観を壊す使い方がされていないか、監視を依頼してくることもあります。

―一般企業からの依頼はどうですか? 「書き込まれたら困る」って考えてらっしゃるような。

松本氏
 それなら、例えば保険会社からの監視依頼が増えてますね。インターネット上を巡回監視して風評を調べるとか、代理店さんが自分たちで勝手にサイトを作るでしょ。それらの記述が金証法に違反していないかチェックしたりする仕事です。

 ユニークなところでは、株主総会の前にインターネット上の風評を調べて、想定問答集を作るのに活用されていた企業さんもいましたよ。


―ところで、松本社長も最近、意見を求められることが増えてるんじゃないかと思いますけど、例の秋葉原の事件のこと。

松本氏
 ああ、あの事件の犯人は、とあるレンタルサーバーの中に、本人が掲示板を立ち上げていました。これは、知る人ぞ知るというものでね。会員数も相当います。

 彼は、見つけてほしいって言っていましたが、もし2ちゃんねるに書いてたら、すぐにつかまりますよ。2ちゃんねるでの犯罪予告というのは、ずいぶん最初のころからあったんです。かつてのバスジャック事件のときも、取り上げられましたよね。


―そうでしたね。覚えてますよ。2ちゃんねるの性質も変わってきたのかな?

松本氏
 ええ。2ちゃんねるは、今や裏の世界から表の世界に出てきた存在なんです。本当に危険なものは、裏に裏に入っていく傾向にあります。「死ね」とか「殺す」などのNGワードは、とある会社では1500にものぼるんですよね。今は、悪質な書き込みは、書いてもすぐに削除されるようになりました。

matsumoto4.jpg―インターネットも健全な世界になってきたと。

松本氏
 そういえるでしょうね。例えば、ケータイキャリアでは速やかに不適切な発言を削除できるかどうかが、公式サイトになれる基準とされています。一般サイトにも、フィルタリング制度に関連して基準を作る動きがありますから、これに準ずる基準が整備されつつあります。

 昔のように、「ネットの世界は何でもアリ」という状況は変わってきていますよ。ネットの中もリアルの世界と同じ。ホテルを建てたら警備員を置くのと同じように、サイトを立てたら監視を置いて、安心、安全なコミュニティを作るという動きになっているんです。


―なるほど。ネットの世界の警備会社になると。

松本氏
 その通り! うちの会長もよく、「うちはネット上のセコムになりたい」と言ってますよ。


―そんなこと、言っちゃっていいんですか?

松本氏
 まあ、セコムさんとは規模が比べ物になりませんからね。文句言われないだろうって(笑)。


―監視ビジネスの概要は、だいぶ分かってきました。次に、サービスの概要について、御社の場合はどうか、教えていただきたいんですが。

松本氏
 うちは、ポールトゥウィンでデバッグ事業を立ち上げたときからずっと、有人サービスを専門とする会社なんです。うちより前から、システムを使って監視をする会社はありましたけど、システムって万能じゃないんですよ。人間が相手なんで、システムはいくらでもかいくぐってしまう。逆に、NGワードと関係のないものまでシステムに引っかかってしまうことがあります。


slide1.jpg不適切投稿の事例
―システムをかいくぐっちゃうものって、どんな手口があるんですか?

松本氏
 例えば動画投稿サイトの場合、画面は何の問題もない美しい映像なのに音声は卑猥といったものもあります。こういう類のものは、人が再生してチェックしないと検出できません。ユーザー側も、削除されないように手口を変えてきますから、毎日が知恵の絞り合い。ツールを作ること自体が無駄な努力になってしまいます。


―全部人手だったら、体制作りが大変でしょう?

松本氏
 投稿は、夜や休みの日に多いですから、24時間体制で、盆も正月も休みなし(笑)。1日3回転のシフトで人員を揃えています。

 監視体制は、チェック回数×チェック件数という2つの軸によって決まります。チェック回数というのは、書き込みの頻度に応じて、24時間体制なのか、1時間に1回なのか、1日に1回なのか...など、お見積もりを出した上でお客さまと一緒に決めます。チェック件数は、監視する対象物のボリュームですね。これは従量制をとっています。


―いちばん大きい規模のプロジェクトは何人体制くらい?

松本氏
 最大規模の案件で、常時約30名体制、月額4000万円ほどいただいています。平均的には、常時1人に満たない程度の体制で、月額10~20万円くらいの依頼が多いでしょうか。小さく始めて、お客さんのニーズが高まってくると、体制もだんだん大きくなっていく、というパターンが多いかな。


―それは楽しみなビジネスですね!

松本氏
 そうはいっても、人件費の差額だけなので、大きく化けることは期待してません。むしろ堅実なビジネスになっています。前期は17億、今期は22億円の売上を見込めるまで成長することができました。

―では次に、社会に対してどのように貢献するビジネスモデルをめざしているか、というあたりを教えていただけますか?

matsumoto2.jpg松本氏
 雇用の創出、ということが一番ですね。うちは、正社員の比率が3割と、業界で見ると高い割合になっています。アルバイトも多くが週5日、8時間勤務で雇用保険にも入ってもらって、時給制契約社員のような待遇にしています。アルバイトも長く雇用して、優秀な人は社員に登用しています。


―アルバイトを長期雇用するメリットは?

松本氏
 監視のニーズは年々専門化してましてね。その影響が大きいです。不適切な書き込みを判断するバックグラウンドとして、業界の知識を覚えるのが大変なんです。化粧品や薬品のサイトであれば薬事法ですとかね。それに、著作権をはじめとする権利全般の知識も習得しなければなりません。


―教育体制は、どのようにしてるんですか?

松本氏
 1人のアルバイトが一人前になるまでに、だいたい3カ月から半年かかりますね。それまでは後ろに人をつけて二重チェックするんです。実地で、削除の基準を教えたり文脈を読む指導をしています。


―アルバイトの教育に3カ月や半年ですか!

松本氏
 そんなにアルバイトを時間かけて教育するところはないでしょう!? ゲームデバッグだと、筋のいい人なら新人でもバグを見つけることができます。けれど、サイトの監視には経験者なんていません(笑)。長く勤めてくれる人がノウハウを持っているんです。

 それと、地方の雇用創出という意味でも地方拠点の立ち上げを行っています。現在、札幌に拠点があって、次は北九州を予定しています。

matsumoto3.jpg―では最後に、松本社長が描く会社の将来像を教えていただけますか? 例えば、上場を目指されているとか...。

松本氏
 社員のために、もちろん会社を大きくしたいですが、上場だけが目標というわけではないですね。このビジネスは、人件費というランニングコストがかかるだけで、必ずしも多額の投資を集める必要がないからです。

 もし上場するとしたら、いい宣伝になることと社会的信用が得られる、この2点が目的ですね。警備という安全を守る仕事なので、業界の社会的地位を高めるために貢献したいなと思います。

 うちの現在の取引先は月間100社ほど。この市場は、まだまだ伸びると思っています。お金をかけてまでネットの安全を守ろうとする企業はまだ少ない。僕たちがリーディング企業として、社会に向けて啓発を行っていきたいですね。

更新日時[2008/08/08]

今回のキーワード:インターネット監視ビジネス

東京・秋葉原の無差別殺傷事件に見られたような犯行予告を通報したり、誹謗(ひぼう)中傷や個人情報の流布、その他違法行為やモラルに反する行為を取り締まり、インターネットの健全性を高めようとする取り組みが社会的に広がっている。このような情勢を背景に、パソコン、携帯のwebサイトへのユーザーによる書き込みを監視し、不適切な発言を即時に削除するというサービスが生まれ、ビジネスとして成立するようになった。
書き込みによる被害は個人や社会だけでなく、企業でも深刻化している。著作権やブランドなどの権利侵害、風評被害など、企業のリスクマネジメント対策としても監視サービスが注目を浴びている。

聞き手:木村 誠

1968年長野県生まれ。2000年6月より『Eビジネス研究所』として ITおよびネットビジネスに関する研究、業界支援活動をスタート。2003年4月『株式会社ユニバーサルステージ』設立。代表取締役として、ITコンサル ティング、ネットビジネスの企画・立案、プロデュース全般を行う。2006年ネットビジネスのイベントとしては国内最大級1000人規模『JANES- Way』実施。2007年4月よりIT業界に特化した職業紹介『ITプレミアJOB通信』をスタートさせ好評を得る。ASPICアワード選考委員。デジタ ルハリウッド、トランスコスモス、マイクロソフトなど講演多数。

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