Vol.6
モバイルSEOの切り拓き方株式会社ヴイワン 代表取締役Eビジネス研究所が開催する「Eビジネス研究会」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」として講師に招き、業界の動向や将来のビジョンについて、参加者とのインタラクティブな質疑応答を交えたセミナーを行っています。この連載では、講演を行う前のEビジネスマイスターに、Eビジネス研究所 代表理事の木村誠氏がさまざまな話を伺います。 今回は、2月14日にEビジネス研究会の講師として登場していただくヴイワンの面来社長に話を伺いました。 ![]()
![]() 面来氏 そうですね。実は、僕はパーティーとか懇親会といった類が超苦手で、そういったつながりの人脈はあまり多くありません(笑)。昨年まで東工大の技術経営のゼミに入っていたんですが、向上心の高い人達が結構いて、そこで知り合った人とは卒業したあとも交流が続いてます。 ―それまでは、ずっと学生? 面来氏 いえ、社会人してましたよ。ヴイワンを立ち上げる前には、留学したりSOHOをしたりしてたんですが、あまり自慢できる経歴はありません。 ―大学卒業のとき、就職活動はやってない? 面来氏 ええ、ゼロですね。みんなが一斉に就職活動することに疑問を感じてました。かといって大学時代にやりたいことが見つからなかったから、やりたいことを明確にしたいと思ってアメリカに行った。 ―アメリカに行こうと思ったきっかけは? 面来氏 ただ単にアメリカに行ってみたかったんです。学生時代、芝浦の「ゴールド」っていうクラブでバーテンをしてまして、そのバイト友達がアメリカにいたので、その友達を頼ってアメリカに行ったんです。 ―彼はどういう... 面来氏 実は、女の子なんですよ(笑)。別に恋愛感情があったわけではないですよ。念のために言っておくと、男友達と2人で渡米したんですから(笑)。 ―それは、大胆ですね(笑)。それで、向こうでは大学に留学されたんですか? 面来氏 ええ。カリフォルニア州立大学に。 ―じゃ、IT関係の学科に進んだ? 面来氏 コンピュータサイエンスです。 ―そこで、やりたいことが見つかった? 面来氏 アメリカに行ったらやりたいことが見つかると思ったけど、現実は違った。ただ、僕が留学してたのは94年から95年で、インターネットが出始めたころ。シリコンバレーが盛り上がる直前の時だった。それで、僕も大学で勉強してて、これは可能性があるんじゃないかって。 ―それで卒業しないで帰ってきちゃったんですか? 面来氏 ええ。でも帰ってきたら就職氷河期! SOHOとは言っても、ほぼフリーターでしたよ。翻訳をやったり、Web制作を個人で請けたり、派遣の SEとか。自分の理想ばっかり高くて現実が伴わなかった。僕、高校の頃から、理想とか、自分に合うものを探してたんです。30歳を過ぎて、ああ、もうそれは世の中にはないんだ、自分で作るしかないとさすがに気づきました。天職と呼べるもの、ミッション、そして一緒に働く仲間。そういう思いで会社を立ち上げた。それが32歳のときです。 ―会社は3人で作られたそうですが、あとの2人は? 面来氏 SOHO時代にプロジェクトで一緒になって、意気投合した人。皆、SE出身です。 ―その人達は、今でもヴイワンにいらっしゃる? 面来氏 ええ、いますよ。 ―で、会社を作ったら理想は叶った? 面来氏 そりゃあ、前向きな人ばかり採りましたから(笑)。最初に手がけたのは、ソフトやシステムの開発だったんですが、いろいろやりすぎちゃって。健康管理システムとか、不動産管理、eラーニング...、全然当たらなかった。そのうち、ネットの事業だけうまく行きそうになったんで、切り離したんです。 ―そうしてできたのがヴイワンなんですね。今は何人くらいいらっしゃる? 21人です。 ―どのタイミングで人を増やすのかって、難しい話ですよね。もちろん売上がないといけないけど、売上を上げるには人が必要。面来さんは「売上か先か人が先か」ってバランスは、どうやって判断されてますか? 面来氏 先に「人」ですね。売上が上がるのを待つのではなく、とにかく一緒にやれそうな人を集めちゃう。 ―集め方は? 面来氏 最初はとにかく紹介で集めました。知り合いに聞いたり、紹介会社使ったり。いろんな人に聞いて、面接の繰り返しです。友人の知り合いに学生がいると言ったら会いに行く。地方の大学もね、広島にまで行ったことがありましたよ。ほかにも、職業訓練生のインターンシップなども利用しています。 ※職業訓練生のインターンシップ:独立行政法人雇用・能力開発機構の各都道府県センターが、民間教育訓練機関等に委託して職業訓練を実施している。パソコン・ITスキルや簿記・介護などの資格取得を目的とするものまで多岐にわたる。特に、概ね35歳以下で正社員をめざす人には実習つき訓練が用意されている。訓練カリキュラムの中に、求人中の企業で一定期間実習することが含まれており、実習先企業と訓練生のニーズがうまくマッチすれば、訓練終了後就職ができるという仕組みだ。 ―じゃあインターン生の中からも採用をすると? 年齢の上限なんかは? 面来氏 年齢は関係なく採ってますね。未経験でもやる気があれば。インターン期間中に仕事ぶりを見て、採用を決めます。 ―最近、名だたるIT企業は、求人で非常にハイスペックな人を求めてきます。一方で、初心者のほうが育てやすいという方もいますが。 面来氏 そうですね。あまりにハイスペックだと気をつかっちゃうじゃないですか(笑)。当社では、仕事に当てはめるんじゃなく、いわゆるポテンシャル採用が多いです。だから、求めているのは、マインドが高い人。当社では「オーナーシップ」つまり当事者意識が高いかどうかを重視します。今は人が必要な時期、ということもあって、この人はすごくいいなと思ったら、ちょっと無理してでも採っちゃいます。 ―そこまで急成長してらっしゃる要因は、やっぱりモバイルSEO? 面来氏 そもそも早くから、「これからはモバイル検索だ、間違いない!」と思ってまして。モバイルサイトの制作がある程度軌道にのってきた2006年から、モバイルの検索エンジンは、今はダメだけどPCサイトの動向を見てたらもうすぐ伸びるだろうと思うようになって。見切り発車だけどSEO対策を始めました。内部的に静的なページ作ったり、外部対策を実験したり。成果報酬を取れる状態じゃなかったんで、最初は初期費用だけいただいていました。 2006年7月に、Googleの検索窓が、auのケータイについたころからSEO対策の需要が増えるようになりました。たしかに対策をすると、検索で1位になる。ところが、1回1位になると、ず~っといる(笑)。1位になってもユーザーが買ってくれない。やっぱり公式サイトの利用のほうが多かった。サービスは始めたものの、人が来ないという状況が続いたんです。 ―PCのSEO対策と比べると、モバイルのSEOはどれくらい遅れを取っているんですか? 面来氏 PCのSEO対策は2002年ごろからのことですから、5~6年の遅れと思っていただければ。モバイルSEOには、まだあまりノウハウが確立されていないんです。アルゴリズムもまだ未成熟で、初期のPCに近い状態ですね。Yahoo!とGoogleの対策がメインですが、公式サイト内で上位表示されるかどうかで検索順位が変わったりですとか、キャリアごとに検索順位が違うので、何がどう違うかを独自に研究しているところです。 最近の端末の機能の進化はスゴイですよね。それと同時に、ユーザーの使い勝手もどんどん向上している。SNSのようにモバイルがPCのサービスに十分追いついているものもある。モバイルSEOを研究する場合、ハード・ソフトの両面から見ることが大切ですね。 ―検索ワードには、PCとモバイルでどういう違いがあるんですか? ビッグワードに検索が集中するとか? 面来氏 今ではケータイのユーザーもリテラシーが高いですから、PCのような複合検索は、モバイルでも見られます。検索ワードの特徴としては、シチュエーションが明確なことです。外にいて探す、ちょっと思いついて探す。そういうシーンに結びつくキーワードです。1つは、モバイルに関連した、着うた・天気・ゲームなどのコンテンツ、そして、お店の情報。それから、パーソナルな内容ですね。健康、美容、結婚とかも。 ―商品の売上から見ると、何か特徴は? 面来氏 売れる商品には特徴があります。圧倒的に、女性が買うものが多い。化粧品とか、健康食品とか。 ―モバイルから火のついた商品なんかも? 面来氏 ああそれは、化粧品なんて、人気商品のアクセスは飛躍的ですね。例えば「足やせ」みたいに具体的なものが売れる傾向にあります。そのほか、人材、旅行、教育、保険、コミックなんかも有望だと思います。 ―モバイルSEOって、世の中的にはすごい未知ですよね。 面来氏 モバイルマーケティング全般については、何回かセミナーでお話させてもらってますが、モバイルSEOについて本格的なセミナーをするのは、次回のEビジネス研究会が初ってことになりますかね。 ―じゃあ、続きはセミナーに取っておくとして、面来さんのワークスタイルについて聞かせてもらえますか? 今、社長業で一番占めていることって? 面来氏 採用と戦略、それもマーケティング戦略。その2つばかりやっている感じですね。ですが人手が足りないときは、いまだに自分で営業に出ることもありますよ。最近、影響力のあるところとアライアンスすることの重要性を学びました。 ―会社が軌道に乗り始めて、何が変わった? 面来氏 人にしても、組織にしても、大きく成長するには大変なパワーが必要です。必死に営業して10人くらいの規模である程度のところまで持っていったとしても、その上はうまく行かない。どのステージでどんなマネジメントをしなければならないかは分かってきたつもりですが、実際にはまだまだですね。ヴイワンを立ち上げるときも、100人くらいの規模になることを想定して作りましたが、軌道に乗り始めるとさらに大変なんだなって気がつきました。 ―ずっと拡大の準備をされてた感じですね。一方で、日ごろの情報収集はどのように? 面来氏 一番は、同業の人から直接聞くこと。代理店さんとか、広告の媒体社とか、ヨコのつながりからの情報ですね。 ―ネットのニュースサイトなんかは? 面来氏 もちろん見てるけど、鮮度が高くないと感じることがある。リアルな情報、新しい情報は、お客さんが、一番持っているんです。 モバイルのアルゴリズムの研究なんかは、全部自前ですね。もちろん、周りとの技術的な情報共有も欠かせません。
面来氏 まだ、モバイルSEOで成果の出る商品は限られています。昔、インターネットで物を買うなんてとんでもないという時代があったじゃないですか。モバイルでモノを買うのも同じだと思うんです。不動産とか、旅行とか、高いモノもそのうち動くようになると思います。 大手企業さんでは、まだモバイルSEOを始めてらっしゃるところは少なくて、やっと今年からというところですね。会社名でケータイサイトを検索して、きちんと出てくるというのが、企業の責任になってくる時代がもうすぐ来るのではないでしょうか。 今回のキーワード:モバイルSEOモバイル広告はPCの広告市場の10分の1ほどの規模であるが、今後順調に拡大すると期待されている分野だ。2005年の定額制開始をきっかけに、モバイルインターネットユーザーの検索に対するニーズが大きく広がった。2006年3月には、auの公式メニュートップにGoogleの検索窓がついて一般ユーザーが検索を始めるようになり、続いてNTTドコモも13の検索エンジンとの提供を開始。ソフトバンクモバイルもYahoo!ボタンを搭載して Yahoo!ジャパンへ誘導を始めるようになった。このようにインフラが整ったことに加え、モバイルコマースの市場が伸びてきたことも、モバイル広告市場の拡大につながっている。従来の公式サイトのような、少額のコンテンツに対する課金には見合わなかった広告費もペイできるようになり、CPC(ワンクリックあたりのキーワード単価)は高騰する傾向にある。単価が高騰する中でどうやって結果を出すかが問われる中、モバイルSEOやさまざまな広告手法の利用が広がると考えられる。 |