Vol.2
逆風下における上場までの軌跡リアルコム株式会社 代表取締役社長兼CEOEビジネス研究所が開催する「Eビジネス研究会」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」として講師に招き、業界の動向や将来のビジョンについて、参加者とのインタラクティブな質疑応答を交えたセミナーを行っています。この連載では、講演を行う前のEビジネスマイスターに、Eビジネス研究所 代表理事の木村誠氏がさまざまな話を伺います。 今回は、10月12日にEビジネス研究会の講師として登場していただくリアルコム谷本社長に、逆風下における上場についての感想と、ご自身のアメリカ生活での体験について日本の文化と対比して話を伺いました。 ![]()
![]() ![]() 谷本氏 変わりは何もないですけど。Yahoo!の株式ニュースとか掲示板に載っているのを見ると、不思議な気持ちですよね。それまでの株主は顔が分かっていて、業界に詳しい人として会話すればよかった。これからは、株を買いながらわれわれを知っていってもらう、会社そのものが商品になったんだなと。 ―社員の様子は? 浮き足立ってないですか? 谷本氏 それはないですね。僕もこれは通過点だと伝えてありますから。静かに喜んでるみたいですよ。連れ立って豪華ランチに行ったりしてね。景気が悪いのがかえってよかったのかもしれない。 ―ITベンチャーに逆風が吹いているこの時期ですから、上場を取りやめようと思ったりは? 谷本氏 まあ、IPOは手段であって、きっかけなだけですから。最悪のIPOって、初値で時価総額が最高になって、あとは右肩下がりになること。この時期ですから、かえって初値が膨れ上がることもなく堅実に推移しています。 僕は楽観的というか、根っから、あまのじゃくな性格なんですよね。今回の上場も、周りからは「台風19号が来てるときにサーフィンに行くようなもの」だって言われましたよ。 ―学校を卒業していきなり外資系企業に就職されたのも、何か思惑があってのこと? 谷本氏 いや、実はあんまり考えてなかったですね。僕は文学部英文科出身で。大学時代はアルバイトして遊んで、当時の普通の大学生をしてました。4年のときに、何も考えずに就職活動して、某電機メーカーの海外営業に内定をもらったんです。受かった後に、これからの人生考えたらね、もしこの会社で順調に出世して、社長になったとしてもつまんないなと思った。 ―社長になっても!? その頃からあまのじゃくだったってこと? 谷本氏 ええ、自分がいなくてもこの会社がつぶれることはないんだろうなって。それで、自分でなければできないビジネスをやろう、ビジネスの勉強をちゃんとやろうと思って、慶応のビジネススクールに行ったんですよ。 ビジネススクールって、毎日ケーススタディをやる、1000本ノックみたいな学校なんです。2年間で700~800ケース、勉強しましたよ。ここから、うまくいくビジネスのイメージが思い浮かぶようになりました。 ※日本のビジネススクール:国内の大学院が授与する「経営学修士」は、日本版MBAと呼ばれることもある。慶應義塾大学が1978年に経営学修士コースとして2年制の修士課程を設けたのが日本初として知られている。 ―そして外資系企業ブーズ・アレン・ハミルトンに就職。外資系って、早く活躍できるんですか? 谷本氏 今は事情も変わっているようですが、当時の日本企業は終身雇用。入社したら「でっち奉公」に時間がかかる。その点、当時の外資は1年目からフルスピードでいろんな仕事ができますから。そこで、外資系コンサルでも当時メジャーだったマッキンゼーやBCGではなく、米国ではNo.1だったものの、国内では歴史が浅く比較的小規模だったブーズ・アレン・ハミルトンに入りました。 ―担当された業種は? IT系はやらなかった? 谷本氏 当時は医薬、雑貨などをやりました。IT企業は担当しませんでしたね。 ―その後、AZCAに転職されたわけですね。そのきっかけは? 谷本氏 僕が入った当時のブーズ・アレン・ハミルトンは、日本ではマイナーな存在で、社員は30名弱しかいなかったんです。それが、だんだんブーズ・アレンも大きくなって、いい意味では組織的、反面、官僚的になってしまった。5年間やってきたんで、もういいかなと。 ―転職先は、意識的に紹介してもらったんですか? 谷本氏 実は、次を決める前に辞めちゃったんです。4カ月間、人生ゼロベースで考えて。シリコンバレーにあるAZCAを紹介されて、その設立者の石井さんに会ったときは、一発で決めましたよ。給料は半分になっちゃったんですけど。 ―給料半分! それでも行こうと思ったのはなぜ? 谷本氏 ひとつはアメリカで武者修行がしたい、という腕試しのため。そして、報道されるアメリカンドリームってほんとかな、と思って。僕たちに届いてこない、ナマの話が聞きたかった。スーパースターと呼ばれる人は、本当はどんな人なのか。僕たちとはまったく違う人なのか、それとも戦えるレベルの人なのかって。 ―で、実際のシリコンバレーは、ジャーナリストが伝えてることと違った? 谷本氏 太刀打ちできないなと思ったのは信念、みたいなところ。今のままでは情熱や意志の力でかなわないと。 仕事がベンチャー企業を発掘することだったので、向こうのいいベンチャーキャピタルが投資してる会社の人と、たくさん会うことができました。また、ちょうど木村さんの「Eビジネス研究会」みたいな集まりがあってね。Netscapeを作ったジム・クラークなんかがスピーカーになっていました。カクテルパーティーでは、Googleがブレイク前の頃、ラリー・ページに話しかけられたこともあります。 ―谷本社長は、その頃から一目置かれていたと? ![]() いえいえ、こういう集まりで日本と違うのは、話しかけるときは人を選ばないんですよ。普通の話をしてたかと思うと、急に仕事の話になる。そこからが大変で、1時間半も熱心に話し続けたりするんです。 シリコンバレーでは、大物と話すときでも1回目の敷居は低いといわれます。でも、そこで見込まれないと2回目はないんです。 ※シリコンバレーの人脈:シリコンバレーでは、人脈でビジネスが動くと言われている。資金集めや投資先選定、ビジネス・テクノロジー両面でのエキスパートの発掘・採用など、人的ネットワークが企業の成長を支えている。もともと自発的な転職も多く人材の流動性が高いシリコンバレーでは、職場外の勉強会や交流会が盛んだ。参加者は自分が求めるビジネスアイデアや出資者などを探すために積極的に多くの人に会おうとする。日本でも、IT業界の人的ネットワークを形成する動きがある。Eビジネス研究所が主催する「Eビジネス研究会」は2000年に発足、今年9月に90回目の開催を迎えた草分け的存在だ。 ―そういうシリコンバレーの人脈をITで表現するために起業されたと? 谷本氏 最初は、シリコンバレーでフリーランスのコンサルをやっていました。その間、2年くらい起業準備だったんですが。50近いビジネスプランを作っては捨て、友達に説明して...の繰り返し。最低1日1コ、Webサイトを見に行ってビジネスモデルを考える勉強もしました。企業の強み、弱みを考えるトレーニングをね。その後、2000年に日本でリアルコムを立ち上げました。 ―「リアルコミュニケーションズ」(リアルコムの創業時の社名)を創業し、「Kスクエア」というC to CのQ&Aサイトをオープンなさったわけですが、「OKWave」や「はてな」との違いはどんなところにありますか? 谷本氏 われわれのサービスでもQ&Aができます。ただし、答える人が誰でもいいというわけではありません。分野ごとの"知恵者"を見つけ出そうとしたわけです。人の格付けを5つ星で表現するといったことをやりました。 ―現在は企業向けのサービスですが、当時から受け継いだことは? 谷本氏 いまだにSNS的なフレーバーが残っていますよ。さすがに社内で格付けをするとマズイので、「お助け時間」という形に表現の仕方を変えました。答えを教えてもらった人が、「あなたが教えてくれたおかげで何時間節約できた」とフィードバックを返すのです。その蓄積はランキング化され、社員の励みになりますし、人脈の力でどれだけ業務が効率よくできたかを見ることができます。 ―こういうビジネスをされている競合他社というと、どこがあるのですか? 谷本氏 強いて言うとマイクロソフトということになりますか。日本企業と、すごくぶつかるというところはないですね。 ―今までのEビジネス研究会のセミナーにはWeb系の企業をお招きしていたので、エンタープライズは縁遠いんですよ。 谷本氏 そうそう、においが違うんですよね(笑)。 これまでのエンタープライズのシステムって、一方的にメーカーが堅牢なものを作って、ユーザーが「使いにくいなあ」と思ってもほかに選択肢がなかった。これだけWebが発達してきて、ギャップがむちゃくちゃ大きくなってきてたんです。僕たちのビジネスは、Webのユーザビリティ、エクスペリエンスに近づけるということ。ユーザーをお客さんとして見るという意味合いです。 ![]() 谷本氏 仕事のやり方として、分からないことがあれば知っている人に聞きに行くということがあると思います。同じように、インターネット上でもわからないことがあったときに知っている人をつかまえに行く、という発想だと思っていただければ。 どこにどんなエキスパートがいるのか、人を検索する、人をブックマークする。そのためのQ&Aサイトであったり、文書管理システムであったりするわけです。 ―私も、名刺交換をした人や、紹介された人の数が整理できないくらいになってきました。人のポータルがあったらきっと便利ですよね。カテゴリで人脈を分類しておいて、カテゴリ別に人の動向が分かったりとか、特定のカテゴリの人に一斉に情報送信ができるとか。 谷本氏 あ、それいいですね。自分がほしいと思いますよ。自分がほしいって思うことが、開発のエネルギーにつながるものですからね。
谷本氏 まず、サービスを発想できるかということ。さらに、買いたいお客さんがどれくらいいるかという点で、日本のほうが市場が大きいでしょうね。日本のお客さんは欲しいと思うでしょうが、アメリカの企業は暗黙知よりマニュアルで動いてますから。日本で成功事例を作ってから、アメリカに進出すべきだと思います。 ―エンタープライズ2.0の分野では、日本がアドバンテージを持っている? そこで生まれた人脈の中から、どんどんビジネスが生まれていく可能性があるとか? 谷本氏 人と人とのディスカッションは盛り上がるでしょうね。ただ、日本人の場合、頭を冷やしてあきらめてしまうんです。 シリコンバレーを見ていると、日本のベンチャーとの大きな違いは2つあって、ひとつは信念の強さ、そしてもうひとつはオリジナリティが強いことだと思います。あちらの場合、これはすごいと思えるようなアイデアや技術に対してののめり込み方というのは、ものすごいものがあると思います。 ―日本人のほうが、精神力、メンタリティが強いように思うんですが。 谷本氏 うーん、バランスが取れちゃってるんじゃないですか? 同じようなサービスをやってる会社を見つけたら、いいとこ取りをしようとしたりとか。アメリカのベンチャーは、後発で、他の会社が同じことをやっていようが、すごいスピードで追い抜いていくんです。 「成功」の定義をどう考えるか、ということになりますが、そのビジネスでメシを食えるようになる、というレベルなら日本もアメリカも同じくらいか、日本のほうが高いかもしれない。ただ、「ホームラン」の打率はアメリカがダントツです。何を言われても気にしない、へこまない精神力がビッグビジネスを生むのでしょうね。 今回のキーワード:エンタープライズ2.0Web 2.0の技術やコンセプトに影響を受けて進化していく、次世代企業情報システムをさす。Webとエンタープライズが本質的に異なるところは、エンタープライズ2.0は経営課題解決の手段であるという点だ。その課題の1つが、集合知によるワークスタイルの変革である。90年代に生まれたが、成功したとは言えなかったレポートや提案書などの“形式知”中心の「ナレッジマネジメント」とは異なり、リアルコムは、人のノウハウや経験などの“集合知”を重視したシステムを開発した。組織横断で使えるQ&Aコーナーやライブラリ、スキルや専門性という切り口で人材を検索できるシステムなど、人が持つ知識や経験を組織内に流通させることにより、組織そのものの進化・変革を促す仕組みとなっている。 |